『ダイ・ビューティフル』は、お葬式のシーンから始まる。
美貌を持ち合わせたトランスジェンダーのトリシャはミス・ゲイ・フィリピーナの新女王として輝いていた。
だが、女王になった直後に彼女は急死してしまう。そんなトリシャは遺言で、「自分の死化粧を日替わりで有名セレブそっくりにしてほしい」と友人に手紙で伝えてあった。
そのため、最後の式典は華やかになった。
差別と偏見にまみれた人生でも、誇り高く人生を歩んだトリシャの生き様が鮮明に映し出されたフィリピン映画を今回は紹介していく。
『ダイ・ビューティフル』のあらすじ
家族からは絶縁されるも、身寄りのない娘をトリシャは育てあげた。そんな彼女の夢はミスコン女王になることだった。努力を重ねて、夢は叶えた。だが幸せの最中に、トリシャは突然の死を遂げた。
トリシャの遺言は友人を驚かせた。
「葬儀までの七日間の死化粧を施して、晴れ晴れとしたものにしてほしい」
そんな内容が記されてあったからだ。
ビヨンセ、ジュリア・ロバーツ、レディ・ガガと日替わりで、トリシャは海外セレブメイクを棺桶の中で施されていった。毎日のように式は行われ、トリシャと関わりのあった人々が会場に訪れては彼女に目を細め、思い出を回想する。
トリシャは裕福な家庭に育ちながら、最後まで「LGBT」というアイデンティティーを偽ることができなかった。そのせいで味わった喜びや挫折は、トリシャだけのオリジナルな人生を良くも悪くも築き上げていった。
『ダイ・ビューティフル』は、トランスジェンダーの女性の一生を色濃く描いた作品である。
『ダイ・ビューティフル』
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主演・パオロバレステロスの疑惑
主役のトリシャを勤めたパオロバレステロスは、本作の化粧をなんと自身で全て担当した。
本人のインタビューからも、メイクの大変さが物語られている。
そのあまりにもクオリティーの高いハリウッドメイクには「世界版・ざわちん」との呼び声も高い。
またトリシャを演じたバレステロスは、SNSを通じてバレステロス自身が「ゲイ」であるのではないか、と憶測が飛んでいる。本人は否定も肯定もしていない。
他の作品でもトランスジェンダーの色が強いゲイの役割をすんなりと受け入れた経歴があり、バレステロス自身のInstagramアカウントでは、男性と一緒にロマンチックな写真を共有していた過去がある。
そんな憶測は『ダイ・ビューティフル』公開後に解消された。
遂にバレステロスは、自身がゲイであることをカミングアウトしたのだ。
トリシャ・エチェバリア(パオロバレステロス)
パオロ・エリート・マカパガル・バレステロスは1982年11月29日生まれ。
フィリピンの俳優であり、またテレビコメディアンとしても有名である。2001年にバレステロスは、正午のショー「Eat Bulaga!」に参加。
徐々に幅広いファン層を獲得していく。
2002年、バレステロスはテレビのスター賞である「ベストニューパーソナリティ」にノミネートされる。
その後、順調にテレビ番組に露出機会を増やす。またその頃に映画出演も果たしている。
2016年には『ダイ・ビューティフル』で主役のトリシャ役を果たす。本作品でバレステロスは、第29回東京国際映画祭で国際ベストアクター賞を受賞した。
映画監督 ジュン・ロブレス・ラナのインタビュー
ジュン・ロブレス・ラナは1972年10月10日生まれ。
国際的に高く評価されているフィリピンの映画家である。 「シャドウビハインドザムーン」を監督し、2015年には、複数の賞を獲得した。第20回ケーララ国際映画祭においても、ロナは同じ作品で最優秀監督賞を受賞している。
『ダイ・ビューティフル』を手がけたロナは、インタビューで「トランスジェンダー問題」について以下のように語っている。
フィリピンはカトリックの影響が強く、保守的な社会なんです。ジェニファー・ロード事件では、フィリピン語で「オカマ」に相当する、あるスラングを使って「こいつは化け物だから殺されて当然だ」「社会のクズだ」といった酷い罵倒がSNS上に溢れかえりました。そういう人たちは、トランスジェンダーについてまったく理解していない。性転換手術がタブーなのはもちろん、ジェニファー・ロードのような人の存在、同性愛を受け入れること自体がカトリック社会では罪なんです。だから徹底して攻撃的な反応が出てきた。でも、トランスジェンダーも普通の人間であり、それぞれの生き方を持っている。それを伝えることは、この映画を作った動機のひとつでした。
出展元:https://www.cinra.net/interview/201707-diebeautifulより一部抜粋
『ダイ・ビューティフル』の主演としてパオロ・バレステレスを登用したのも、カミングアウトの機会をもたらすためだったのかもしれない。ちなみに、本作に参加しているエキストラのトランスジェンダー役の人も、後にほぼ全員がゲイであることを出演を機に明かしている。
LGBTとは
『ダイ・ビューティフル』には「LGBT」の代表作だという評判が多かった。
LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、それぞれの英語の頭文字からとったセクシャルマイノリティの総称だ。
近年、生まれながらの性格や性別のあり方が尊重されて、見直されるようになったのがLGBTだ。同性間の恋愛や結婚が認められるようになったのも、「LGBT」の認知度が向上してきたからだ。
『ダイ・ビューティフル』は作品を通じて、トランスジェンダーの認知度向上も担っている。
『ダイ・ビューティフル』を観た人の反応
シネマート心斎橋にて『ダイ・ビューティフル』鑑賞。もしかしたらトリシャは最後まで自分の生き方に自信が持てなかったのかもしれない。でもバーブが施した最期のメイクはどんなセレブメイクより美しく、トリシャの人生を肯定していた。辛いエピソードも色々あったけど、とても素敵な友情物語やった。 pic.twitter.com/xBFbZfBbZL
— dita (@ditagrapefruit) August 6, 2017
このように好意的なコメントが目立っている。
今日観たもう一本、「ダイ・ビューティフル」もすごく面白かったです〜〜!フィリピン映画でトランスジェンダーの主人公(ものすごい美人!)の死化粧と半生を振り返りながら、主人公にとって自分らしく生きることと自分らしく死ぬことがどんなことか考えることになりました。友人と娘がとてもいい… pic.twitter.com/OgkhGqCFVa
— hiyo☂️🚒🚀 (@mmm_hiyo) July 30, 2017
人生を見つめ直すのに、いい作品かもしれない。
まとめ
トランスジェンダーのトリシャは、家族からは絶縁されるが、愛情はあった。だからこそ身寄りのない娘を引き取り、育て上げている。その後、遂に念願だったミスコンの女王の座に挑戦し、栄光の座に輝いた。
だがそんな喜びも束の間、ほどなくして彼女は突然死してしまう。
トリシャの遺言に沿って葬式前の儀式は行われていく。
「異なる海外セレブの化粧を纏わせて欲しい」という願いは友人の協力によって叶えられた。
トランスジェンダーであっても、自身の考えを強く持って生涯を全うした。
強い女性の代表格であるトリシャを見て、あなたの人生を深く見つめ直してみてはいかがだろうか。