2021年12月1日にNETFLIXで配信された『パワー・オブ・ザ・ドッグ』についての解説です。
本作は、2022年のアカデミー賞に最多12部門にノミネートされた話題作です。
映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の原作の違いやあらすじ、キャストをネタバレありで考察していきます。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』あらすじ
舞台は1925年のモンタナ州。
牧場経営をしている兄のフィルはカリスマ性があり知的ですが、男性至上主義です。
一方、弟のジョージは真面目で温厚な性格です。
そんな二人は牧場経営をしていました。
ある日、未亡人のローズが店主を務めるレストランでカウボーイ仲間と共にフィルは食事をしていました。
店主が女性であることやローズの息子のピーターの中性的な容姿を見てフィルは仲間と共にからかいます。
弟のジョージはフィルの無礼を謝りました。
そこからローズの元を訪ねるようになり、やがてローズはジョージと再婚をしました。
ローズが来たことでフィルは「財産目当てだ」と疑いローズに対して陰湿な虐めを繰り返します。
やがてローズは酒に逃げるようになっていきます。
夏休みになるとピーターがローズを心配してくるようになります。
そこでも、中性的なピーターを毛嫌いして酷い仕打ちをしていますが、やがてフィルは自分の中のある感情を知っていくのでした。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の監督・キャスト
映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の監督・キャストについてみていきましょう。
監督:ジェーン・カンピオン
監督はジェーン・カンピオンが務めています。
1982年に短編映画『ピール』で監督デビューをしました。
ブレイクのきっかけは、1993年に公開の『ピアノ・レッスン』でニュージランド人で初となるカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞します。
さらに、アカデミー賞で脚本賞と主演女優賞、脚本賞などを受賞しました。
本作は、12年ぶりとなる監督作品になります。
フィル・バーバンク役 ベネディクト・カンバーバッチ
フィルを演じるのは、俳優のベネディクト・カンバーバッチです。
2000年に芸能界入りを果たします。
舞台俳優として活躍後に、2003年の映画『クロムウェル〜英国王への挑戦〜』からスクリーンデビューを果たしました。
ブレイクのきっかけは、2004年に公開の『ホーキング』に出演をしたことでした。
その後は、2010年に放送の『SHERLOCK(シャーロック)』でエミー賞の主演男優賞を受賞しています。
代表作としては、2016年に公開の『ドクター・ストレンジ』や2021年に公開の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』などを挙げることができます。
ジョージ・バーバンク役 ジェシー・プレモンス
ジョージを演じるのは、俳優のジェシー・プレモンスです。
1998年から芸能界入りをします。
翌年には映画「バーシティ・ブルース」で本格的に俳優デビューしました。
ブレイクのきっかけは、2015年に放送されたドラマ「FARGO/ファーゴ」に出演をしたことでした。
さらに、2016年には「母が教えてきれたこと」で主演を務めています。
ローズ・ゴードン役 キルスティン・ダンスト
ローズを演じるのは、女優のキルスティン・ダンストです。
1989年に公開の『ニューヨーク・ストーリー』で女優デビューを果たします。
その後、1994年に公開の『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』でゴールデングローブ賞で助演女優賞にノミネートされました。
ブレイクのきっかけは、2002年に公開の『スパイダーマン』でヒロインのMJ役を演じたことでした。
代表作としては、2011年に公開の『メランコリア』や2015年に放送の『FAGRO/ファーゴ』などを挙げることができます。
ピーター役 コディ・スミット=マクフィー
ピーターを演じるのは、俳優のコディ・スミット=マクフィーです。
2005年に子役として芸能界入りをします。
2007年に公開の『ディア マイ ファーザー』で俳優デビューをしました。
その後、2010年に公開の『モールス』で主演を務めました。
代表作としては『X-MEN』シリーズや、2014年に公開の『猿の惑星: 新世紀 』などを挙げることができます。
ローラ役 トーマシン・マッケンジー
ローラを演じるのは、女優のトーマシン・マッケンジーです。
2012年に芸能界入りを果たします。
2014年に公開の『ホビット 決戦のゆくえ』で女優デビューをしました。
ブレイクのきっかけは、2018年に公開の『足跡はかき消して』に出演をしたことでした。
この映画で、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞でブレイクスルー演技賞を受賞しています。
代表作としては、2019年の『ジョジョ・ラビット』や2021年の『オールド』などを挙げることができます。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の注目ポイント
映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の注目ポイントやネット上の評価についてみていきましょう。
原作との違いは?
映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、アメリカの人気小説家トマス・サヴェージが1967年に出版した『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が基になっています。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の原作との違いは、原作の方が登場人物の心情の変化や過去の経緯を割りやすく説明しているという点です。
例えば、インテリで女性差別のフィルがなぜそうなったのかを一人の男性の存在を通して分かりやすく説明しています。
また、映画ではローズの前夫が自殺たところから物語は始まりますが、原作では前夫がなぜ自殺に至ったのか、前夫の心理状況を描いています。
映画ではっきりと台詞で登場キャラクターが何を思っているのかを描いてはいません。
あえて描かなかった理由は、観客に登場キャラクターが何を考えているのかを考えさせる効果があります。
緊張感のあるやり取りを観ることで、想像力が深まり、登場キャラクターの立場になって映画を体感できるのです。
フィルという人物像
映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の最大の魅力は、ベネディクト・カンバーバッチが演じるフィルです。
フィルは男性至上主義的ですが、大学を優秀な成績で卒業し、読書家で、教養があり、農場を経営するほどの資産家です。
フィルがローズやピーターにする虐めが教養のある人間が他者を見下す行為からくる虐めが描かれています。
決して暴言を吐いたり、暴力を振るったりはしないのですが、着実に相手を追い詰めて精神的に衰弱をさせていくのです。
フィルの人物像を現すシーンとして「フィルが牛の去勢をする」を挙げられます。
去勢をされた牛は闘争心がそぎ落とされ、大人しく従順になります。
まさに、フィルは人間の生きる意欲を去勢する人物といえます。
例えば、ローズが店主を務めるレストランでテーブルに飾られたペーパーアートの花を見てローズの息子のピーターが作ったと洞察力のあるフィルはすぐに気が付きます。
しかし「どこの若い娘が作ったんだ?」とピーターに聞こえるように言うのです。
ペーパーアートをマッチ代わりに火を付け、仲間たちとなじります。
そんなフィルを演じるために、ベネディクト・カンバーバッチは2週間、カウボーイの生活を体験したそうです。
またもともとは禁煙者でしたが大量の喫煙をしたり、2週間近くお風呂に入らなかったとか。
さらに、共演者だったローズ役のキルスティン・ダンストと撮影現場でも一切会話をせずに威圧的な雰囲気を出したそうです。
凄い役作りですよね!
アカデミー賞で最多12部門にノミネート
2022年2月8日に開催された第94回アカデミー賞ノミネートの発表で、なんと最多12部門にノミネートされたのです!
また、監督のジェーン・カンピオン監督は過去にも『ピアノ・レッスン』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールとアカデミー賞脚本賞受賞しています。
女性監督で監督賞を受賞すれば、昨年の『ノマドランド』でクロエ・ジャオ監督が受賞したことに続き2年連続で女性監督が受賞することになります。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ネタバレ考察
ここからは、ネタバレありで考察していきます。
性的マイノリティの表現
劇中でフィルが性的マイノリティだと分かるシーンが劇中には登場します。
フィルは伝説的なカウボーイのブロンコ・ヘンリーの名前を何度も口にします。
一見、フィルが男らしいカウボーイに憧れているかと思いますが、実はブロンコ・ヘンリーに対する恋慕だったのです。
また、ブロンコの遺品であるハンカチで自慰したり、男性のヌード写真を持っていたことからもフィルがゲイであることを現しています。
舞台は1925年でまだ性的マイノリティへの見方も少ない時代です。
フィルがローズや中性的なピーターに辛辣に当たっていたのは、自分の性的マイノリティを隠す裏返しだったと言えます。
フィルの心境の変化
フィルが急にピーターに心を開いた理由は原作から2つあります。
一つは、フィルは信用にあたえする人間は信用する性格だということです。
ピーターがカウボーイたちの冷やかしを受けても毅然とした態度で接しているのを見て、並外れた度胸の持ち主だとフィルは思い信頼を置くようになります。
また、二つはピーターと近付くことでローズがより一層、見捨てられたように感じ精神的に追い詰める目的もありました。
ピーターが差し出した皮を受け取った理由
次第に、ピーターに昔の自分を重ねてしまいます。
フィルはかつて伝説的なカウボーイだったブロンコ・ヘンリーとひとつになりたいと思っていたように、ピーターも同じように思っていると感じていました。
そのため、自分はできなかったことへの罪悪感が大きく、ピーターが差し出した皮を受け取ったのです。
ピーターの中性的な容姿からピーターをゲイだと思わせるミスリードも上手いと感じました。
ピーターの動機
ピーターは、母親であるローズがフィルに精神的に追い詰められていく姿をずっと見ていました。
その後、医学書を読み、炭そ菌を調達するために乗馬の練習を始めたのです。
ピーターの覚悟を知るうえで、劇中でフィルがウサギの度胸を試したシーンで「度胸があるやつだ」とフィルが言います。
それに対して「I guess he has to be gutsy.」とピーターは言います。これを直訳すると「彼が勇敢でなければならない」となります。
つまり、弱いウサギ(ピーター)も母親のために勇敢でなければならないと思う覚悟を象徴しているのです。
さらに、自殺したピーターの父親から「お前は強い奴だ」と言われたと語っています。
フィルは「男らしい強さ」だと勘違いしていましたが、ここでの強さは「意思の強さ」を現していたのです。
ラストで母親とジョージが抱き合っている姿を微笑ましく見守るシーンからもピーターがいかに策略家なのかが分かりますね。
ネット上の評価
ネット上の評価についてみていきましょう。
パワー・オブ・ザ・ドッグ、観た。粗暴な農園主・フィルと、その対極のフェミニンな少年・ピーターの接近が淡々と描かれるが、その裏ではロープのように何重にも入り組んだ「呪い」がある。「皮がない!」と涙目で癇癪をおこすフィルのなんと哀れなことか…。見えるもの/見えないものの倒錯。傑作! pic.twitter.com/DglQoSsPog
— じゅぺ (@silverlinings63) December 6, 2021
最多ノミネートって意外と作品賞取らなかったりするイメージだけど『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は沢山の方に観てほしい映画なので、最多ノミネートで話題に上がるのは意義深いと思う。
アカデミー賞ノミネート全リスト!『パワー・オブ・ザ・ドッグ』最多12ノミネート https://t.co/oectD89NCG
— azami⁷💐 (@shirominn) February 8, 2022
世界中から注目をされており、今年ベストと呼び声高い作品です。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』まとめ
2021年12月1日にNETFLIXで配信された『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のあらすじ、キャストについて調査してみました。
本作は2022年のアカデミー賞に最多12部門にノミネートされた話題作で、監督は1993年に『ピアノ・レッスン』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールとアカデミー賞脚本賞受賞したジェーン・カンピオンが務めています。
原作は、トマス・サヴェージが1967年に出版した『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で原作の方が登場人物の心情の変化や過去の経緯を割りやすく説明しています。
本作では、映画ではっきりと台詞で登場キャラクターが何を思っているのかを描いてはいないことで観客に登場キャラクターが何を考えているのかを考えさせる効果があります。
ぜひ、人間の心の中にある大西部を感じてみてはいかがでしょうか。